空気汚染のない公共交通を提供するためにー中国の電動バス業界

空気汚染のない公共交通を提供するためにー中国の電動バス業界 – 記事

一般的に、新興国では大気汚染は深刻な問題となっており、中国やインドでのスモッグの映像はたびたびニュース番組でも取り上げられています。
日本でも近年高い関心を呼んでいる大気汚染を図る数値に、PM濃度がありますが、中国でもPM濃度には大きな関心を寄せています。中国政府が実施した『大気汚染防治行動計画(2013年から17年)』では、地域ごとにPM濃度削減目標が掲げられ、そのための対策(石炭利用の制限など)が具体的に指示されました。

2012年に北京市が発表した、同市におけるPM2.5の発生源は、自動車を原因とするものが22%に上るとされています。2018年3月に北京市が発表したPM2.5の濃度は1立方メートル当たり88マイクログラムに達しました。日本の基準では、人の健康を維持するために望ましいPM2.5の濃度は年間平均で1立方メートル当たり15マイクログラム以下、1日平均では35マイクログラム以下に設定されていることを考えると、いかにこの数値が高いものかが理解できると思います。
大気汚染の軽減のために中国が国を挙げて推進しているのが、公共交通機関の電動化です。これは大気汚染の軽減につながるだけでなく、石油燃料への依存からの脱却やコスト削減にも有効な手段です。
今回は、中国の電動バスへの取り組みを紹介します。

中国の電動バス業界

Bloomberg New Energy Finance(ブルームバーグ・ニュー・エネルギー・ファイナンス)によれば、2017年世界中で40万台近い電動バスが運行されていましたが、このうち99%が中国国内で運行された、ということです。2025年までにはその数は、120万台までに拡大すると予測されていますが、ここでもやはりその99%が中国国内での運行になると予測されています。
中国の中央及び地域の政府は、クリーンテクノロジーの費用軽減のために多大なインセンティブと厳格な達成目標を設定しており、これが今日の中国国内の電動バス業界の躍進を支えています。現在のところ中国の電動バスメーカーが、この分野で世界を牽引しています。
この分野で中国国内の主導的立場にあるのが深セン市です。

深セン市の電動バスへの取り組み

深セン市は香港の新界と接し、経済特区に指定されています。中国では、北京市、上海市、広州市と共に、本土の4大都市と称される「北上広深」の一つであり、「一線都市」に分類されており、金融センターとしても重要な機能を果たしています。
この深セン市では、2017年の終わりまでに市が運行する16,000台以上のバスの電動バスへの移行を完了し、2018年末までには市内で営業するすべてのタクシー(22,000台あまり)もすべて電動車両に移行すると発表しました。
これほど大掛かりな変革が達成できた背景には、中国政府の多大な援助政策がありました。Made in China 2025の重点目標の一つとして、中国は電動自動車、SUV、商業車両などを2025年までに300万台生産することを掲げています。

深セン市の場合には、全バス電動化への取り組みは2013年に始まりました。
電動車両への移行がスムーズに行われた大きな理由の一つが、政府からの補助金です。
深セン市及び中央政府からバス一台ごとに年間500,000元(US$72,000程度、深セン市が400,000元を中央政府が100,000元を支給)が毎年支払われているのです。電動タクシーに対しても額は小さいですが(136,000元=US$19,500程度)、同様に深セン市と中央政府からの補助金が各電動タクシーに対して毎年支払われています。
これに加え、市は4万ヵ所のチャージング・ステーションを設定し、電動車両の利用者への便宜を図っています。

現状では未だ電動バスのコストは180万元と、ディーゼルバスに加えて2倍ほどの価格ですが、稼働している電動バス1,000台ごとに毎日500バレルのディーゼル使用量(16,000台では一日合計8,000バレル)を削減することができ、市内の大気汚染軽減に大きな貢献を果たします。また、バス運営部門も、電気料金が安く設定されている夜間にすべてのバスのチャージングを行うことで、燃料費を抑えています。

公共バスの電動化は中国全土の他の年にも広がっており、Bloomberg New Energy Finance の調査によれば、5週間で9,500台規模で電気バスの導入が進んでいるということです。ロンドン市内のバスの総数が9,500台程度ですので、その数の膨大さは驚嘆に値します。

このような追い風の中で、深セン市が導入した電動バスのほとんど及び電動タクシーの全車両を製造したのがBYD(Build Your Dreams、比亜迪自動車販売株式会社)です。

夢を形にしよう - BYD

BYDは中国のバッテリーメーカー比亜迪股份有限公司の子会社で、2003年に設立された深センを本拠とする電動自動車やバスのメーカーです。創業者で現会長の王伝福は、2009年度版の胡潤百富榜の評価では総資産350億元と、中国一の資産家の一人だと言われています。親会社の比亜迪股份有限公司へは、世界的な投資家のウォーレン・バフェットが出資していることでも知られており、同社のM6販売セレモニーに同氏とビル・ゲイツが出席したことでも話題となりました。
2018年には、12月ひと月で3万台近くの電動車両を売り上げるという記録を達成し、現在BJEV(北汽新能源)に次ぐ中国第2位の規模を誇ります。
BYDは、未来は再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵技術(すなわち電池)および電気自動車の組み合わせにあると考えていると、語ります。同社が考えるアーバン・モビリティは3段構成になっており、それらは(1)地下の鉄道システム、(2)電動の地上交通及び(3)高架モノレール・ネットワークです。

BYDのメイン生産工場では、電動車両が90秒ごとに組み立てられていきます。ほとんどの作業はロボットが行っており、人間は機械の作動状況をチェックしているだけです。
他方、BYDバスは香港から北東に100キロほど離れた広東市で組み立てられています。
バス工場にはまだロボット化は導入されておらず、こちらではバス一台を組み立てるのに18日かかり、一日当たりの生産台数は36台にとどまっています。

深セン市の抱える課題

公共バスの全社電動化を達成した深セン市ですが、大気汚染の課題はクリアできたものの、思わぬところでコスト増や将来への不安定さに悩まされています。
一つは現行の政府からの補助金制度が2020年には満期を迎えるということです。この時期までにどれほどの投資金額が回収できているか、または新たな補助金制度が導入されるのかなど兼材料は多くあります。
また、電動バスの充電には独特のバスの配置が求められるため、チャージング・ステーションに適した土地の確保、通常の駐車場よりも広い土地が必要になることからくる土地の買収または賃貸料の増加なども頭痛の種となっているようです。

中国の電動バスメーカーにとっても、現在も解決されていない米中貿易摩擦の影響による原材料の高騰、輸出品への高関税への懸念の他、2020年に現在の補助金が終了して以降の需要の正確な予測、欧米自動車メーカーの開発加速化による競争激化など、将来的に慎重なかじ取りが要求される状況が続きそうです。

≪参考資料≫
https://www.scmp.com/magazines/post-magazine/long-reads/article/2182466/powered-state-china-takes-charge-electric-buses
https://www.scmp.com/business/china-business/article/2169709/shenzhens-all-electric-bus-fleet-worlds-first-comes-massive
https://en.wikipedia.org/wiki/BYD_K9
https://www.theguardian.com/cities/2018/dec/12/silence-shenzhen-world-first-electric-bus-fleet
https://www.greenbiz.com/article/chinas-electric-bus-leadership