アメリカにおける「ODR」の歴史:定義や概念、また今後の展望 – その②

アメリカにおける「ODR」の歴史:定義や概念、また今後の展望 – その② – 記事

1.「アメリカ」にて「ODR」についての企業向けサービス

1990年代にアメリカで初めて発表されたODR (Online Dispute Resolution =オンライン紛争解決)は、eBayやPayPalなどが独自にODRシステムを開発し、多くの小規模な紛争を裁判所に出頭することなく早期に解決していったことで広まっていきました。アメリカのODRの第一人者であるeBayのODRの責任者だったColin Rule氏は、eBayでの成功の後の2011年にODRサービス会社のModria社を設立し、現在は同社を吸収合併したTyler Technologies社のODR担当ヴァイスプレジデントとして、電子商取引のみならず、様々な分野のためのODRシステムを開発し販売しています。Tyler社だけでユーザー数が消費者、中小企業を中心に15,000超ということから、アメリカでODRは他国に先駆けて浸透していることがわかります。アメリカでは他にもCyberSettle, ICounthouse, OnlineMediator.comといった企業でも、ODRソリューションを提供しています。

2. 「アメリカ」にて「ODR」の消費者向けサービス

オークションサイトとして有名なeBayでは、ODRで年間6000万件の紛争を処理しています。その90%は、人間が介入せずにソフトウェアのみで処理が実施されています。eBay Resolution Centerは、売り手、買い手双方に対してのサービスを提供しています。年間6000万件ということは1秒間に1.9件の紛争が発生する計算です。もちろん取引件数はその数万倍と想像できます。

eBay Resolution Centerに寄せられる紛争のそのほとんどは数万円程度の取引なので、当然のことながら裁判するには小規模すぎ弁護士に依頼するには費用倒れになる額です。eBayでは利用者誰もが安心して取引できるように、low value high volume(少額で多数)の紛争を、効率的に処理する必要を認識しいち早くその処理を本番稼働させました。

インターネット取引では利用者の所在を問わないために、国境をまたがった取引の紛争もeBayに多く寄せられました。どちらの国の法律が適用されるか?という問題を意識せずにオンラインで解決できるということも、顧客満足度を向上させるために重要であるとeBayでは考えました。

現在eBayでは売り手と買い手の間で生じた紛争を自主的に解決するために、Resolution Center内にDispute Consoleというページを設けています。このページでの対話により問題をオンライン上での解決を目指しながら、場合によっては第三者に調停を依頼することもできるというものです。

その他にはAAA(American Arbitrators Association)の消費者向けサービスがよく利用されています。紛争の申立てがインターネットのAAAのWebサイトを通じて行うことができ、多くの調停がオンライン上で行われています。

3. 「アメリカ」での「ODR」導入裁判所例

電子商取引企業のみならず、ODRを利用で成功している裁判所がアメリカには多くあります。その中から今回はオハイオ州フランクリン郡裁判所に事例を紹介しましょう。

フランクリン郡裁判所において、調停は事前申告から事後判断までの紛争解決プロセスの不可欠な要素です。 2015年の世論調査の結果に動機付けられたこともありましたが、フランクリン郡裁判所の少額請求部門および紛争解決部門のマネージャーが、ODRが紛争を解決するために直接的で、費用対効果の高い方法であると確信したため、ODRイニシアチブを裁判所の賛同の元に開始しました。裁判所や司法指導者の積極的な支援と励ましで、 1年も経たないうちにODRシステムが本番稼働し、市税の問題、少額の請求、クレジットカードの借金、家主問題、および6,000ドル以下のその他の紛争を含む民事紛争の解決に使用されるようになりました。

システムの利用の仕方は次の通りです。まず当該ユーザーはODRシステムに対し、メールで招待されます。システムにログイン後は、ユーザーと有資格者の裁判所の仲裁人だけがアクセスできるウェブサイトを使って、24時間365日いつでもメッセージやファイルを非同期的に送信できます。支払いの手配を含めて、システム上で紛争解決のプロセスが全て行えます。もし当事者が合意に至った場合には電子文書に署名し紛争プロセスは終了しますが、その合意を裁判所に提出する場合もオンラインで行えます。また当事者が合意に達しなかった場合や訴訟が提起されていない場合は、オンライン上で他の法的選択肢に進むことができ、訴訟が係属中の場合には従来の裁判所に出頭しての裁判への手続に進むこととなります。

本番稼働初年度はこの裁判所が手がけたうちの紛争78%がODRシステムで処理され、裁判所全体では大いなるプロセス改善になりました。このシステムの成功がフランクリン郡に2017年の司法行政および、法改正委員会での革新的な裁判実務を可能にしたため、オハイオ州弁護士会から大きな賞賛を得ました。

4. 「アメリカ」での「ODR」の今後の展望(企業側の変化)

電子商取引企業ではODRシステムを導入が前提になることが考えられます。その傾向は電子商取引企業だけではなくて、裁判所や他の業界でも同じことです。紛争リスクを早急に解決できることで自分たち会社のブランドを守りながら、顧客からの苦情をデータ化して企業あるは役所の経営に活かしていけば、ひいては顧客満足度の向上が望めることが考えられます。

2018年12月にアメリカ、日本そして東南アジアなどのアジア太平洋経済協力会議(APEC)の参加国が、共同で域内の企業間の少額のビジネス紛争をオンラインで解決する仕組み作りに乗り出したとの発表がありました。裁判に比べて迅速に低コストで解決できるODRの共通ルールを早急に決め、試験運用を2019年の早い時期で行う予定とのことです。国境を超えた紛争解決のハードルが下がれば、各国の中小企業やスタートアップが、事業を拡大し海外展開する上での大いなる後押しにもなることでしょう。

5. 「アメリカ」での「ODR」によって今後どんな暮らし方になっていくのか(消費者側の変化)

アメリカのみならず、オランダシンガポールインドにおいては国家レベルでのODRの取り組みが行われています。B2Cビジネスの拡大により小規模の紛争は増え続けるため、ODRはどんな国にとっても導入が必須になるでしょう、近い将来ODRは国際レベルで統一された紛争解決方法として、アメリカのモデル立法文書や国内法などで正式に導入されると考えられます。

ODRを経験したユーザーは経験したことがないユーザーよりも、インターネット取引に戻ってくる率が高いことが伝えられています。つまり電子商取引で何らかのトラブルに遭って紛争になったとしても、泣き寝入りすることなくODRで迅速解決できれば、そのプラットフォームへの愛着(ロイヤルティ)が逆に高まるというデータもあるそうです。

アメリカではODRがすでに浸透していますので、消費者はすでにリスクの可能性に怯えるのではなくて、インターネット上の取引で何か起きても、ODRがあれば安心感を得られるので電子商取引をますます使うことでしょう。

AIビッグデータ時代の到来で、アメリカでは消費者にとっても新たなODRシステムがどこより早く登場することが想定され、さらにインターネット上の紛争解決だけでなく裁判所や他業界でもODRシステムの導入が進むと考えられます。

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