アメリカにおける「ODR」の歴史:定義や概念、また今後の展望 – その①

1. 「ODR」の言葉の意味・定義

ODR (Online Dispute Resolution = オンライン紛争解決)は、売り手と買い手の間で起きた交渉、調停、仲裁などの従来の紛争解決のプロセスに、ICT (Information & Communication Technology) を活用した一つの方法であり、また紛争解決のためのソフトウェア自動化プロセスの使用を意味します。現在世界各地でODRの導入が進められています。

ODRの最大の利点は、当事者が裁判所の訴えを起こす必要がないということです。そして幅広いODRの幅広いアプローチではインターネット上の紛争だけでなく、商業的または社会的紛争などの従来の紛争もICTを活用することで解決することができます。

国連が掲げるSDGs (持続可能な開発目標)でも、全ての人々に法へのアクセスを提供することを目標としていますが、ODRが目指すものはオンライン上で迅速かつ効率的に、紛争を解決できるようにプラットフォームを整備することで、人に正しい判断を促しインターネットの利便性の向上を実現することです。

インターネット市場の急速な拡大により、人々はインターネットを通して思い立った時はいつでも、商品やサービスの売買できるようになりましたが、国際的なネット取引の紛争も並行して増加しています。

ODRにより裁判所に出頭しなくとも済み、さらには国境は関係なく迅速に紛争解決ができるので、売り手買い手双方が安心して、インターネットでの取引ができるのです。

訴訟手続きによらない紛争解決方法である、裁判外紛争手続(Alternative Despute Resolution =ADR)とODRがしばし同じものであるとみなされますが、ODRは革新的な技術とオンライン技術を紛争プロセスに適用することによって、ADRのような伝統的な方法をさらにパワーアップした方法なのです。

2. 「ODR」という「言葉」はいつ生まれたのか

1990年代前半はオンライン環境が大きく変化した時期でした。 World Wide Web (www) は1989年に発明され、インターネットサービスプロバイダー(ISP)と最初のグラフィカルブラウザがその数年後に登場しました。その結果インターネットへのアクセスが誰でも簡単にできるようになり、オンラインでのコミュニケーションや大量の情報の入手が比較的容易になるにつれて、オンライン人口も増え始めました。

1994年頃にインターネット上で発生する紛争に対処するためのツール、リソースそして専門知識が必要であると言われ始め、1996年にはODRに関する最初の記事が法律の専門誌に掲載されました。その後NCAIR (National Center for Automated Information Research=国立自動情報研究センター)とCLI (Cyberspace Law Institute=サイバースペース法研究所) が、ODRに向けた初の会議を後援し、その後初めてのODRプロジェクトである、バーチャル治安判事プロジェクト (Virtual Magistrate) が行われました。

3. 「ODR」の概念が生まれた背景

いかなるビジネスも基本的に売り手と買い手で成り立ちます。買い手は良い商品やサービスをより安く買いたいと思っています。そして売り手は効率良くしかも多くの利益が出る商品やサービスを提供したいと思い、そのために仕事ができる人材をリーズナブルな報酬で雇用したいと考えます。一方雇用される側は、より多くの報酬を得たいと考えます。それぞれの立場での欲求は一位ではありませんので、ビジネスは本質的に紛争を抱えているのです。

1992年まで当時インターネットを管理していたNSF (National Science Foundation)では、商業目的でのインターネットの使用を禁止していましたので、紛争が起きることはほとんどありませんでした。しかしインターネットが急速に進化し、電子商取引に代表されるオンラインビジネス市場の拡大により、早いタイミングで買い手と売り手との紛争の増大が予想されました。 しかしspam、フィッシング、音楽のダウンロード、オンラインでの取引、マルチプレイヤーゲームなどがさかんに行われる前は解決方法は一般化しておらず、インターネット上で発生する正式な紛争解決システムも、まだ存在していませんでした。

4. 「アメリカ」にていつごろから「ODR」という言葉が広まりはじめたのか

1995年にはAmazonやeBayに代表される電子商取引 (EC) 企業の台頭により、インターネット上での売買を誰でも行う時代が到来し、その先陣を切ったアメリカではODRの必要性が急速に増していきました。そして電子商取引により生じた、国境をまたがった取引の紛争について、どちらの国の法律が適用されるか?という準拠法の問題を意識せずに、オンラインで解決することへの必要性が高まりました。その後1990年代後半にはODRが徐々に広まりはじめました。

なぜ広まったのか、その背景は・環境はどうだったか

eBayでは1999年にマサチューセッツ大学の情報技術・紛争解決センターへ、買い手と売り手間の紛争を調停するパイロットプロジェクトの実施を依頼しました。この紛争解決プロセスシステムの開発は、インターネットのスタートアップであるSquareTrade社がスタートさせましたが、数年後にeBayが引き継ぎました。

システムが本番稼働した後2010年までの1年間足らずの間にでeBayが処理した紛争は、6,000万という非常に大きな数字に達しました。このeBayの成功により、電子商取引におけるODRの対応が事実上必須となっていきました。

5. 「アメリカ」「ODR」におけるキーパーソンとその活動

ここでアメリカのODRのキーパーソンを2人紹介します。

1)Prfessor Ethan Katsh

Katsh教授は、ODRの第一人者として、広く認識されています。2001年にODRの指標となった「Online Dispute Resolution: Resolving Conflicts in Cyberspace」を出版しています。

1996年以降からKatsh教授は、ODRに関連した活動に携わってきました。1997年にはHewlett財団の支援を受けてJeremy Rifkin教授とともに、マサチューセッツ大学に国立情報技術センターと紛争解決センターを設立しました。そして1999年にdisputes.orgを共同設立しました。 これは後にドメイン名の紛争を解決するためにICANNによって認定された、最初の4つのプロバイダーのうちの1つとなりました。

その後スイスオーストラリアエジプトイギリスなどで開催された、ODRの国際会議で議長を務め、現在もODRのエバンジェリストとして活動しています。

2)Colin Rule氏

Rule氏は現在Tyler Technologies社の、ODR担当ヴァイスプレジデントです。2003年から2011年までColin氏はeBayとPayPalでODRの責任者を務め、その2社でODRのシステム開発の指揮を取ったことでも知られています。そのうちの一つであるeBay Resolution CenterではODRで年間6000万件の紛争を処理しています。その90%は人間が介入せずに、ソフトウェアのみで処理が実施されています。

Rule氏は25年以上にわたりODRの分野で尽力してきました。日本のODR関係者にもとてもよく知られた存在です。

6. 「アメリカ」での「ODR」の今後の展望

アメリカのみならずインターネットビジネスは、今後も進化を遂げていきます。近年のAIブームや人々のリーガルテックへの関心の高さに伴い、ODRが次世代のリーガルサービスとして注目を浴びるのもそう遠い話ではなさそうです。

現在ODRはeBayのようなメガマーケットプレイスをはじめ、単体のEコマース、決済プラットフォームなどに提供されています。今後は自治体と個人の紛争、保険金関連、製造物責任、オンブズマンによる通信などの特定事業分野への苦情、プライバシー関連など様々な分野に広く活用されるようになっていくことが考えられています。

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