フランスにおける「インダストリー・ルネサンス」の歴史:定義や概念、また今後の展望 – その①

フランスにおける「インダストリー・ルネサンス」の歴史:定義や概念、また今後の展望 – その① – 記事

1. 「インダストリー・ルネサンス」の言葉の意味・定義

インダストリー・ルネサンス (Industry Renaissance)とは、近年の世界の産業が大きく変革されようとしている変化について仏ダッソーシステムズ(以下ダッソー)が語る際に用いる概念でありビジョンです。そしてこの変化は産業界のみならず、社会全体構造に影響を及ぼしていくとしています。

ダッソーはフランスを代表する複合企業体である、ダッソーグループのソフトウエア子会社の一社です。最先端の製品開発ソフトウェアにより、3次元設計、エンジニアリング、3D CAD, モデリング、シミュレーション、データ管理、プロセス管理のソリューションを提供しています。

約500年前独グーテンベルクが活版印刷の技術を発明したことで人々の知識の共有が進み、新しい時代が始まりました。これがルネサンスと呼ばれる時代の始まりでした。ルネサンスでは、「書物」を通じた「知」の共有が可能になったことで、社会と産業が大きく変革していきました。

現代における「書物」とはエクスペリエンス(ユーザー体験)である、とダッソーは断言しています。どのようにエクスペリエンスを創出していくかが重要なので、これまで製造業界で行われてきた製造の自動化だけでは不十分で、エクスペリエンスによる新たな学習方法が必要となり、企業では自らを「学習センター」であると考えるべきであると述べています。

2. 「インダストリー・ルネサンス」という「言葉」はいつ生まれたのか

2018年にダッソーの各拠点で開催されたダッソー最大のプライベートショーである、3DEXPERIENCE Forumにおいて、インダストリー・ルネサンスという言葉が初めて使われました。以前から「エクスペリエンスがビジネスを改革する」といったコンセプトはありました。

インダストリー・ルネサンスがドイツが2011年に発表した、インダストリー4.0に大きく影響を受けたことは、間違いありません。

3. 「インダストリー・ルネサンス」の概念が生まれた背景

ドイツのインダストリー4.0、中国の中国製造2025、アメリカのIIC (Industrial Internet Consortium) そして日本のソサエティ5.0やConnected Industry など、先進諸国各国では製造業を中心に、IoT, AIなど最新技術を用いてデジタル化・コンピュータ化を目指すことを、国家戦略として打ち出してきました。

フランスでは、2015年4月にフランスにおけるIoT活用に関する民間推進団体の、Alliance Industrie du Futur (産業の未来のためのアライアンス)を設立し、2020年に向けた新しい国家戦略である、Industry of the Future(未来の産業)を推進しています。

フランスを代表する企業であるダッソーは、Industry of the Futureの共同推進役として、フランス企業を支援し、デジタルの力で企業ビジネスの変革をサポートするという点に重点を置いたことから、インダストリー・ルネサンスの概念が確立し、新たなビジネスモデルの定義作りの推進が始まりました。

4. 「インダストリー・ルネサンス」がという言葉が広まりはじめたのか

2018年1月に発表されて、ダッソーではあらゆる場面でインダストリー・ルネサンスのビジョンを紹介しました。そしてインダストリー・ルネサンスにおける変革をサポートする自社のソフトウェアプラットフォームである3DEXPERIENCE プラットフォーム上で使えるアプリケーションのポートフォリオを拡充していった結果、ヨーロッパを中心とする、中小企業も含む多くの企業がインダストリー・ルネサンスを追従するようになりました。

なぜ広まったのか、その背景は・環境はどうだったか

デジタル社会は成長を続け、企業が生き残るには社会や産業の急激な変化に対応しなければなりません。そのためには、ユーザーのニーズを速やかに吸い上げ、製品の市場投入をスピードアップする必要があります。つまり従来のものづくりの開発期間の短縮が求められ、今までと同じ方法ではもう立ちいかない事態となりました。

その結果ビジネス変革のために新たなエクスペリエンス(ユーザー体験)を創出こそが必要であるという、インダストリー・ルネサンスが広まっていったのは、当然の結果であると考えられ、もはやインダストリー4.0を超えた概念と言われることもあります。

5. 「インダストリー・ルネサンス」におけるキーパーソンとその人の活動

元来一企業のビジョンとしてインダストリー・ルネサンスが生まれたので、キーパーソンにあたるのは、ダッソーという企業ということになります。今回はそのトップである取締役会副会長兼最高経営責任者であるベルナール・シャーレス氏の活動と、ダッソーとしてのインダストリー・ルネサンスについての見解を共有したいと思います。

1983年に新技術開発チームのトップとしてダッソーに入社したシャーレス氏は、ダッソーを世界的な3Dソフトウェアのリーダー企業に育てました。2012年に3DEXPERIENCEプラットフォームの提供開始を発表し、デジタル化とシミュレーションの技術をエクスペリエンスにも適用させたことが、インダストリー・ルネサンスの始まりといえます。

シャーレス氏は、2018年の3DEXPERIENCE Forumで、次のように述べました。

「今日のインダストリー・ルネッサンスは、単なるデジタル化の枠を大きく超えています。これまでにないタイプの企業が登場し、全く新しい分野のソリューション、プロセス、サービスが加わり、生産性よりもイノベーションの持続可能性に重点が置かれるのは明らかであります。3Dの世界はイノベーションの新たな領域を開拓し、ビジネスと科学と社会が将来的に共存できるかどうかは、自然環境や人々の生活と製品の調和を実現する持続可能なイノベーションを創造できるかどうかにかかっているのです。」

6. 「インダストリー・ルネサンス」の今後の展望

「製品そのものというだけではなく、エクスペリエンスにこそ価値がある。」と、ダッソーでは強調してきました。

「日本の内閣府が提唱しているソサエティ5.0や経済産業省がソサエティ5.0の実現の手立てとして打ち出したコネクテッドインダストリーは、インダストリー・ルネサンスと同じ動きをとらえたものである。」

とダッソーは述べていますが、一方で

「日本は変化(変革)に対して新たな野心を持つべきで、インダストリー・ルネサンスの課題に対処し、最先端のツールをどうニュスべきである。」

とも言及しています。

ダッソーではインダストリー・ルネサンスはすでに世界中で起こり、今後はグローバルベースに急速に加速すると予言しています。それぞれの領域で強みを持つ企業とアライアンスを組み、業界を超えた連携が進んでいくことを予言し、自らも各業界のエキスパートや先端技術のスタートアップのアライアンスを進めていくことを計画しています。

小売業の変革を加速させた革新的なオンライン取引プラットフォームが、製造業でも確立することをダッソーは目指しています。そして製品ライフサイクルをプラットフォーム化し、未来の顧客が求める製品をいち早く予測し、スピーディーに製品化されていくことが想定されます。

企業では顧客の個々のプロセスをサポートするのではなくて、顧客のビジネス全体のバリューチェーンに関わることを旨とし、顧客の組織改革をも促すような動きをすすめることが想定されています。

インダストリー・ルネサンスはダッソーが発表したビジョンですが、今後はダッソーだけでなく、世界の企業が取り組む概念となることが考えられます。