中国における「インターネットプラス」の歴史:定義や概念、また今後の展望 – その①

1. 「インターネットプラス」の言葉の意味・定義

中国ではインターネットを活用した個人向けサービスが急速に発展し、グローバルベースでも注目を集めているのは周知です。これを既存産業の競争力強化に活用しようとする政策が、インターネットプラスです。

インターネットプラスで示された基本的な考え方は、インターネットビジネスにおける中国のスケールメリットの優位性を生かしながら消費や生産水準の向上を加速し、各業界において開発能力を高めてインターネットを今後の経済成長のエンジンとするというものです。

インターネットプラスでは、モバイルインターネット、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoTなどの新しいインターネット技術全体が11の重要と定められた分野で、様々な産業と連携し新たな発展を目指します。

  1. 創業/革新 (企業/スタートアップ)
  2. 製造
  3. 農業
  4. スマートエネルギー
  5. 金融
  6. 公共サービス
  7. 物流
  8. 電子商取引
  9. 交通
  10. 環境
  11. 人工知能 (AI)

それぞれの分野には、具体的な目標が設定されています。

2. 「インターネットプラス」という「言葉」はいつ生まれたのか

インターネットプラスが初めて使われたのは、2015年3月中国の国会に相当する全国人民代表大会において、李克強首相が「互聯網+(インターネットプラス)行動計画」を提出した時でした。 その後2015年7月に中国国務院が「インターネットプラス行動を積極的に推進することに関する指導意見」を発布しました。翌年2016年5月に中国教育部語言文字信息管理司が「中国言語生活状況報告書2016」を発表しました。インターネットプラスは製造業の競争力強化政策である中国製造2025と、統合して進展させることが必要であるとされました。

インターネットプラスの推進によりオンライン決算サービスの急速な普及、自転車シェアリングサービスの爆発的なヒット、デリバリーサービスの充実など、中国の人々の生活スタイルが大きく変化することになりました。

3. 「中国」で「インターネットプラス」の概念が生まれた背景

中国の個人向けのインターネット利用は1990年代後半から始まりました。当初は海外企業のサービス利用がメインでしたが、その状況に危惧した中国政府は段階的にインターネットに対する規制を強め、2007年以降にGoogle, Facebock, Amazonといった影響力が大きい海外企業が提供するインターネット上のサービスを、国内で順次遮断していきました。

この結果検索エンジンではバイドゥ(Baidu)、電子商取引はアリババ(Alibaba)、ソーシャルネットワークサービス(SNS)はテンセント(Tencent)という国内企業が、それぞれの分野で巨大企業に成長しました。この3社は現在BATと呼ばれています。BATのサービス内容は最初は米系企業のコピーにすぎませんでしたが、次第に独自の発展をとげました。

その一例として電子商取引は2010年より急成長をし続け、中国が世界一の市場規模となりました。5年後の2015年の中国のネットショッピングのユーザー数は4億1,300万人、そのB2Cでの市場規模は3兆8,800億元(約62兆円)に達し、小売総額に占める電子商取引の割合は12.0%と、アメリカ(8.0%)を上回ることとなりました。

さらに中国ではオンライン顧客にオフラインのサービスを提供するO2O市場が発達し、配車サービス、家事サービス、出前サービスなど顧客が店舗に出向かずともスマートフォンを操作するだけで、サービスが顧客の元に届けられるようになりました。これは通常のネットショッピングと変わらないように感じられますが、商品だけでなくサービスも購入でき、しかもきわめて短時間のうちに提供されることが特徴です。O2O市場規模は2015年に3,600億元(約5兆7,600億円)を超え、現在も拡大しています。

O2Oでの成功により、中国でインターネットを活用した社会変革への期待は大いに高まりました。その結果あらゆる産業をインターネットと融合し、付加価値創出を高めようとするインターネットプラスが打ち出されたわけです。

全世界のインターネットユーザー数は2016年6月末時点で約36億人とされていましたが、 中国は2016 年の時点でその2割にあたる7億人を超えるインターネットユーザーを擁していました。そしてそれは中国の人口に対しては5割の普及率でした。そこで中国政府は2020年までに、人口の85%にモバイルブロードバンドを普及させる目標が掲げました。

O2Oサービスの成功は世界の投資家の注目を集め、中国のインターネット関連投資は急速に拡大しました。2017 年 12月中国人民銀行(中央銀行)は、 同年 7ー9 月のモバイル決済額が前年比 39.4%増の 49 兆 2,600 億元(約 835 兆円)であると発表しました。

4. 「中国」にていつごろから「インターネットプラス」という言葉が広まりはじめたのか

2015 年 3 月にインターネットプラス行動計画が発表したのち、インターネットプラスという言葉が一気に広まりだし、翌年にはインターネットプラスが新たな流行語トップ10に選ばれました。インターネットプラスが中国の国家戦略として推進されてから、中国国民のライフスタイルは大きく変化しました。

なぜ広まったのか、その背景は・環境はどうだったか

中国のインターネットプラスは、その方向性や目指す具体的な目標は他の先進国のインターネット戦略と大きな違いはありませんが、中国が成功するための有利な点がありました。

  • 個人のスマートフォン利用人口が巨大なので、個人に関するサービス分野で独自の展開の可能性があること
  • 欧米や日本に比べ非効率であった企業の業務プロセスが、ネットワークの活用で短期間に改善する可能性が高いこと
  • イノベーションの推進が政策目標に明記されているため、万一新たなビジネスモデルの開発が既存の規制や制度と抵触する場合には、政府の迅速対応が期待できること

インターネットビジネスで多くのO2O市場が生まれ、他の先進諸国に追いつき追い越せの気運が国内で高まった状況も、インターネットプラスを大いに広めることになりました。

5. 「中国」「インターネットプラス」におけるキーパーソンとその活動

インターネットプラスの推進の立役者として、バイドゥ、アリババ、テンセント は外せません。

バイドゥ:

2000年に創業されたバイドゥはその後急成長をとげ、2005年には米Nasdaqに上場を果たしました。同社の株式はアメリカの証券史上、IPO初日に最多利益をあげた株式の一つに数えられています。2006年には日本法人を設立し、2008年には日本語版検索サイトの本格サービスを開始しました。2017年は自動運転車を共同開発する、世界最大の企業連合であるアポロ計画を設立に関わり、2018年には金龍客車と共同開発を進めてきた、世界初の高度自動運転バスのアポロンの量産を開始しました。同年米GAFAなどが加盟する大手AI企業団体のパートナーオンAIに、中国企業として初めて参加しました。

アリババ:

B2B電子商取引のマッチングサイトであるAribaba.comを掲げ1997年に設立されましたが、瞬く間に急成長しました。国際的に知名度を得たのは、2005年にYahoo!中国を買収した時でした。以後ソフトバンクとも提携し現在に至ります。2014年には米ニューヨーク証券取引所に上場し、時価総額2兆円を超える、当時では史上最大のIPOとして話題を呼びました。2018年より10年契約で国際オリンピック協会の13社目のワールドワイドパートナーとなり、オリンピックのスポンサーとして貢献しています。

テンセント:

1998年に中国深センで創業されたテンセントは時流にのり、SNSのQzone (QQ空間)やインスタントメッセージサービスで中国最大企業になりました。現在では電子決済でもアリババに匹敵するシェアを誇ります。またSNSのみならず世界最大のゲーム会社であり、アプリの収益は世界一を誇ります。2004年に香港証券取引所に上場しました。
自社も出資する米テスラの自動運転車や、Amazon Echoのハッキングを実演し、ソフトウェアアプリケーションのセキュリティ面の脆弱性の修正に協力する、ホワイトハッカーの活動も行なっています。AIの研究開発にも力を入れています。

6. 「中国」での「インターネットプラス」の今後の展望

インターネットプラスが発表された2015年当初に列挙された重点分野のうち、すでにいくつかの分野では具体的なアクションプランが作られ、実装段階に入っています。

さらに中国政府が創業とイノベーションを推進する「大衆創業・万衆創新(双創、大衆による起業と革新)」政策を掲げ、全ての国民が起業を目指す「創業革命」が進行していたこともあり、多くのスタートアップがインターネットを活用した新たなサービス開発に挑戦し、成功を収めています。今後も多くの新たなビジネスモデルが登場することが期待されています。

インターネットビジネスは、各国がしのぎをけずっていますが、部分的に中国が大きくリードする可能性もあり、今後の動向が注目されます。

もっとも中国のインターネット企業の収入源は、 現状国内市場がほとんどです。将来的な成長を描く上では、国内にクローズするのではなく海外展開を如何に進めるかが中国の課題といえるでしょう。