アメリカにおける「デジタルサプライチェーン」の歴史:定義や概念、また今後の展望 – その①

1. 「デジタルサプライチェーン」の言葉の意味・定義

サプライチェーン管理 (Supply Chain Management、以下SCM)とは、物流システムをある1つの企業の内部に限定することなく複数の企業間で統合的な物流システムを構築し、経営の成果を高めるためのマネジメント手法です。つまり親会社と子会社のような企業グループ内での関係に留まらず、外部の企業との間で構築される物流システムもSCMと呼ばれます。

そして従来のSCMが進化して、クラウド、アナリティクス/AIIoTAR/VRロボティクスブロックチェーンなど先端テクノロジーを取り入れてデジタル活用したSCMを、デジタルサプライチェーン管理(Digital Supply Chain Management) 、以下Digital SCM) と言います。

2. 「デジタルサプライチェーン」という「言葉」はいつ生まれたのか

SCMの概念の基礎が生まれたのは1940年代から1950年代のことです。その後物流がブームになり、1970年代に入るとビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)の概念が登場し、そして1990年代には、ITを活用した経営革新手法として、独SAPに代表される実行系システムのERP(Enterprice Resource Planning) パッケージ、計画系のSCP(Supply Chain Planning)パッケージ、情報系のBI(Business Intelligence) パッケージが、順次ブームとなりました。

しかしながら先進国向けを前提とした単一的なSCMでは不況下であっても、需要が増加する新興国市場向けの中低価格製品を、タイムリーに供給できないなど、多極化した経済圏や市場への適切な対応が難しいことが認識されていました。この市場の変化に対応するために、市場の多様性と複雑性を前提としたDigital SCMへの変換が必要だったのです。その後ドイツインダストリー4.0から始まった、第4産業革命の始まりののちに、デジタル技術を活用したDigital SCMという言葉が登場することになるのです。

3. アメリカでデジタルサプライチェーンの概念が生まれた背景

1990年代前半にアメリカ産業界では、企業間取引における無駄をなくし、投資リスクを減らすサプライチェーンを積極的に発展させるSCP 活動が、SCMの始まりといわれています。SCMパッケージとして、米i2テクノロジー(後年米オラクルに買収され、その技術はオラクル製品に踏襲)が世界でいち早く発表され、SCMは瞬く間にブレークスルーし、ERPで先陣を切っていたSAPやオラクルもそれに続きました。その後デジタル技術を活用したDigital SCM という言葉が、第4産業革命が始まったのち、登場することになるのです。

4. 「アメリカ」にていつごろから「デジタルサプライチェーン」という言葉が広まりはじめたのか

第4次産業革命におけるIoT推進のため、2013年発表されたドイツインダストリー4.0、そしてアメリカでIIC (Industrial Internet Consortium) が設立した2014年ころ、Digital SCMが広まり始めました。それはSCM 4.0と呼ばれることもありました。

・ なぜ広まったのか、その背景は・環境はどうだったか
陸続きが多い地形の欧米では、遠隔から国境を越えてコントロールしようという発想でビジネスの仕組みをつくってきました。すべてをデータ化し、システムの中に取り込んで処理をする、モノの流し方のルールを決めるというようなことが容易で、SCMのデジタル化も進めやすかったのです。そしてERPやクラウド、データアナリティクス、センサーの技術の飛躍的な進化、低価格化によってIoTが急速に普及し、エンドツーエンドのプロセスを的確にコントロールできる技術環境が整っていきました。

2015年にソーシャル、モバイル、クラウド、ビッグデータによる、情報への即時アクセス需要が高まり、新規デジタル技術が一気に押し寄せ、ビジネスと日常社会の両面で、既存のアメリカ企業に破壊的ともいえる変化を迫りました。アメリカの上場企業での、デジタルの波による影響は明らかでした。2000年以降、米フォーチュン誌が年1回発行するランキングリストである、フォーチュン500選出企業のうち、52%が姿を消しました。

S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが算出しているアメリカの代表的な株価指数であり、機関投資家の運用実績を測定するベンチマークであるS&P500インデックスに、企業が存在し続ける平均期間は2012年時点で18年間でしたが、これは1958年時点での61年間や、1980年時点での25年間と比べて、大幅に減少していることが明らかです。企業として生き残るためにも、以前は市場としてみなしていなかった地域へのビジネスの移行が必要になったり、あるいは炭素排出量の削減と交通規制の強化など、物流が新たに直面している課題の解決のためにも、そして労働力の不足の解消にも、最新技術を有効利用したDigital SCMが広まっていったのです。

5. 「アメリカ」「デジタルサプライチェーン」におけるキーパーソンとその人の活動

Digital SCMにおけるキーパーソンの固有名詞をあげるのは、かなり困難です。なぜなら彼(ら)は企業の一員として活動しており、個人としての活動ではないからです。アメリカのDigital SCMのパイオニアとしてまずあげられるのは、ATカーニー、マッキンゼー、デロイトといった、グローバルなコンサルファームと、ガートナーやフォレスターといったリサーチ企業です。今回はアメリカのDIgital SCMのキーパーソンの一人として、DeloitteのAdam Mussomeli氏を紹介します。

Mussomeli氏は20年以上、コンサルタントと業界人の両方の立場で、消費財と工業製品業界の企業に対して、グローバルなエンドツーエンドのSCMトランスフォーメーションを提供しています。また彼は画期的な先端技術を採用して、測定可能な財務結果を提供することで知られています。Mussomeli氏には「サプライチェーンマネジメントレビュー」など多くの著作があり、DeloitteConsulting LLPのDigital Supply Networks組織を創設し、その責任者です。消費財と工業製品業界における偶発手数料ポートフォリオも担当しています。

6. 「アメリカ」での「デジタルサプライチェーン」の今後の展望

2018年までには多くの業界の上位20社のうち3分の1が、業界固有のDigital SCMの変革に、大きな影響を受ける事になると考えられます。情報のデジタル化と高度な革新的技術の適用でビジネス価値を高める機会を提供します。今ではSCMといえば、Digital SCMのことを意味しています。それほどSCMのデジタル活用が進んだのです。SCM市場のトップは、かつてERPの覇者であったSAPですが、No.2のオラクル、No.3 JDAはいずれもアメリカ企業です。2017年の世界で(Digital) SCM市場全体の売上高は、前年度の13.9%増の122億ドルに達しています。

5年または10年で競争力のあるDigital SCMを構築するためには、変化をタイムリーに予期できることが必要です。つまり企業のトップは業界がどの方向を目指すかを評価し、そこに到達するために必要なサプライチェーンを特定しなければならないのです。

典型的なSCMを利用していて、将来はDigital SCMへ早急な移行を検討している場合、現状と将来の理想的なDigital SCMとのギャップを埋めるための施策の一つとして、SCMのいくつかの要素をアウトソーシングする方法があります。それによって個々の事業やセグメントへの、サービス提供の際に生じる様々なコストを削減でき、ビジネス効率も向上します。あるいは、複数ビジネスや複数のワークフローのサポートすることができる、1つの共通ITプラットフォームで、複数のギャップを一度に埋めることも検討できるのではないでしょうか。

Digital SCMの推進で影響があるのは企業だけではありません。意思決定に大きな影響を及ぼす購買、医療サービス、気候変動、労働条件、人権関連などの情報へのアクセスがデジタル活用でますます容易になるため、消費者の動向も変わることでしょう。モバイル端末を介しての消費者支出は、2018年末までに626億USドル超になると想定され、eコマースの売上と利益の、約半分を占めるようになるでしょう。今や約80%もの企業が消費者の商品やサービスの購買方法が、劇的に変化していることを認識しています。

何でもインターネット経由で買える時代になったのに、迅速に手を打てなかった小売業の大型のショッピングモールは、ガラバコス化し、ほとんどが消滅するのではないでしょうか。消費者の変化に対して早くから認識した企業のうち51%以上では、価格とデリバリーモデルの変更に着手し、生き残りのためにDigital SCMは企業にとって、ますます重要になります。

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