ドイツにおける「Industry4.0」の歴史:経済の根幹を成す製造業における救世主コンセプト – その②

ドイツにおける「Industry4.0」の歴史:経済の根幹を成す製造業における救世主コンセプト – その②

元々、デジタル・テクノロジーが製造業に与える変革に注目し、これを自国が誇る製造業の分野での競争力を強化する為に、2011年に紹介された新たな産業革命のコンセプト「Industry 4.0」ですが、今日では、製造業以外の分野にも拡大されてきています。

Tata Consultancy Services(タタ・コンサルタンシー・サービス)とBitkom Research(ビットコム・リサーチ)が2018年に行った調査によれば、2016年当時デジタル・テクノロジーへの投資は企業収入の4.6%であったものが、2018年の調査時には5-10%へと拡大しています。
この調査で同時に明らかになったのが、ドイツ企業におけるデジタル・テクノロジーへの投資は、ITセキュリティ、カスタマー対応に関するソリューションに重点をおいている、と言うことです。また、従業員500名以上の企業ではチーフ・デジタル・オフィサーなどの役職を新たに設け、全社規模でのデジタルへの移行を推進している組織が増えてきたことも明らかになりました。

Industry 4.0を利用した企業向けサービス

前回の記事では、ドイツ製造業大手の現場におけるIndustry 4.0への取り組みを紹介しましたが、今回はこのような現場での取り組みをサポートするサービスを提供する企業を紹介したいと思います。

SIEMENS - スマートデータ活用による工場の生産性向上 シーメンス
参考:https://www.plattform-i40.de/I40/Redaktion/EN/Use-Cases/030-maximum-plant-performance-with-smart-data/article-maximum-plant-performance-with-smart-data.html

機械と工場の効率化とエネルギー効率を向上するために、SIEMENS(シーメンス)はPlant Data Servicesを提供しています。このシステムの特徴は、世界中に供給されているツールの計画外シャットダウンが発生した場合の迅速なトラブル・シューティング、保証請求時の為の安価で安定した予測可能なコスト、付加価値の提供による新たな収益源の模索、競争力の強化、などをサポートすることです。
Plant Data Serviceの活用により、サービス・リスポンスにかかる時間と質が飛躍的に向上され、フィールド・データを基にしたバリュー・サービスの提供、ホットライン・サポートの実施により技術者の出張経費の削減などを実現することができます。
機械の納品前に、デジタル・フィンガープリントを装着することで、その後のトラブル・シューティングなどの際に、より一層迅速で正確な対応が可能となります。

Limtronik  - Smart Electronic Factory e.V. リムトロニク
参考:https://www.plattform-i40.de/I40/Redaktion/EN/Use-Cases/065-the-smart-electronic-factory-at-limtronik/article-the-smart-electronic-factory-at-limtronik.html
参考:http://www.limtronik.de/en/industry-4.0/

Smart Electronic Factory e.V.(スマート・エレクトロニク・ファクトリー)は、Industry 4.0のエレクトロニクス部門でのソリューション開発に着目しました。この組織には、主要な設備製造業、自動化スペシャリスト、テクノロジープロバイダー、コンサルタントそして大学組織などが参画しています。この組織が重視するのは、中小企業が必要とする要件を調査・研究・検証することです。
Limtronik(リムトロニク)はSmart Electronic Factory e.V.の一員で、Industry 4.0のデベロップメント・プラットフォームを稼動する、最初のEMSサービス・プロバイダーです。
同社のLimburg an der Lahn工場で、Smart Electronic Factory e.V.のシステムの実証が行われています。Limtronikのプラント・モジュール、スキャナー、センサーなどのコンポーネントは、電子機器業界が抱えているインターフェースの課題を解決する為、デバイスや表柔化されたシステム・インターフェースを介して接続されています。
ここでは、クラウド・レディ・システムが自発的にデータを交換し、注文状況と製造条件を考慮に入れ、インストレーションと機械をコントロールします。常にプロセスを最適化し、サプライチェーン全体のコスト削減のために、全てを記録、文書化し、評価を下します。全てのコンプライアンス要件を遵守しつつ、100%のトレーサビリティの達成が可能です。

EIMcomponents GmbH - EIM Ways イー・アイ・エム・コンポーネンツ
参考:https://www.plattform-i40.de/I40/Redaktion/EN/Use-Cases/342-eim-ways-en/article-eim-components.html

Industry 4.0の黎明期に企業が抱える課題は、既存のビジネスプロセスをその独自性を損なうことなく、デジタルプロセスへと移行することです。組織に関わる全ての人や部門が、新しいデジタルネットワークに繋がることが第一歩です。このプロセスを如何に安価で、滑らかに、一歩一歩実現していけるかが、その後の成否を決定付けます。
EIMcomponents GmbH(イー・アイ・エム・コンポーネンツ)が提供するEIM Waysとは企業向け情報管理(Enterprise Information Management)システムに、同社が持つデジタルネットワークにおけるフレキシブルなプロセス・コントロールを掛け合わせたものです。
EIM Waysを利用して、バリューチェーン上の異なる組織間でのデータや書類の交信や処理を行います。組織間の差異はEIM Waysで均質化されるため、バリューチェーンは企業環境で標準化することが可能です。
ここで成功の鍵となるのが、ビジネスパートナーに対するデジタル・ネットワーキングと、組織内部のデジタル・ネットワーキングを切り離すことです。内部デジタル・ネットワーキングは、全てのビジネスパートナーで標準化され使用されますが、グローバル・デジタル・ネットワーキングはビジネスパートナー間での再を均質化します。

Industry 4.0導入例

北ドイツ地方がIndustry 4.0のノウハウを活用して100%再生可能エネルギーに移行
参考:https://www.windpowerengineering.com/business-news-projects/northern-germany-going-100-renewable-industry-4-0-know/

NEW 4.0プロジェクトの一環として、ハンブルグとシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州が単一のエネルギー区画として統合され、ドイツにおいてクリーン・エネルギーへの移行が実現可能であることを示すショー・ケースとしての役割を担うことになりました。NEW4.0はこの地域の450万人の居住者に対し、早ければ2035年までに100%安全で、安価、二酸化炭素排出量を50-70%削減することが可能なエコフレンドリーな電力源を有する、再生成エネルギーを提供することを目標としています。2025年までには、この地域の70%が安全な電力源の再生成エネルギーの供給を受ける見込みです。
NEW4.0は産学及び政府協同の新しいタイプのプロジェクトで、デジタル化を中核とするIndustry 4.0のノウハウを基にしています。インテリジェント・システム・ネットワークが開発されるにつれ、エネルギーの移行に関しても重要な役割を果たすようになります。
このプロジェクトの成功には、プロダクション、ディストリビューション、ストレージなど全ての段階において、インテリジェント・ネットワーク・テクノロジーを活用した統合が鍵となります。既に60以上の地域内外の組織がこのプロジェクトに参画して、統合された技術の専門知識をベースとして、エネルギー移行に関わる諸課題を解決する為に協力し合っています。

Industry 4.0の農業への活用
参考:https://publikationen.reutlingen-university.de/frontdoor/deliver/index/docId/1840/file/1840.pdf

Agriculture 4.0 - EUにおける農業分野での取り組み紹介
参考:http://www.clubofbologna.org/ew/ew_proceedings/2017_S1_3_PPTX_ADAM.pdf

Agriculture 4.0白書 - 農業機器のコネクティビティ
参考:http://www.xn--landtechnik-anschlussfhig-machen-6yc.com/Whitepaper_Agriculture4.0_January2017.pdf

製造業以外の分野でIndustry 4.0の技術活用が大きく期待されているのが、農業分野です。
地球温暖化や世界的な人口増加に伴う農業環境の変化、食品廃棄の問題など世界的な課題への対応に、Industry 4.0が大きく貢献できると考えられています。
Agriculture 4.0として、農業大国や農業が産業の中心を占める新興国・発展途上国とドイツの共同でのスマートファーミング、なども積極的に行われています。
Agriculture 4.0では、環境を保護し持続可能性を維持しながら、高効率で収益性の高い農業の実現を目指します。Agriculture 4.0には、農機具メーカー、農産物サプライヤーなど伝統的に農業に関わってきた企業だけでなく、研究・調査機関、SAPIBMなどのIT関連企業や、投資会社、IoTソリューションプロバイダー、スタートアップなど様々な業態の企業が参画しています。
農業にIndustry 4.0を適用しようとする際に課題となるのが、田舎では通信インフラが遅れている、農機具は旧式のものが多い、以前に比べ農家自体の数が減少してきたが農家一件あたりの作付面積は増えている、IoT技術への知識があまりない、などですが、Agriculture 4.0は農作業に関わる部分だけでなく、その後の輸送・保管・管理までを含めて、包括的に農業分野の効率化・高収益化を実現させようとしています。シンプルなBluetoothGPS、RFIDテクノロジーと人と農機具間のコミュニケーションを実現することで、自身で最適化できる農業サプライチェーン・ストラクチャの達成を目指します。
また、農地や農業関連施設に設置された無数のセンサーから収集されるデータの管理・活用・保護に関しては、EUでは別途“EU Code of Conduct on Agricultural Data Sharing”(農業におけるデータシェアリングに関するEUの行動規範)という規範を明文化しています。

三菱電機のIndustry 4.0への取り組み
参考:https://eu3a.mitsubishielectric.com/fa/en/news/press/sendfile?sendFile=a31beb7a-5658-11e7-a133-b8ac6f83a177_Mitsubishi_Industry_4_0_comment_Hartmut_Puetz_ENGLISH_DMA609.pdf&sendFileId=-3218

Mitsubishi HiTec Paper Europe GmbH
参考:https://www.mitsubishi-paper.com/en/hitec-paper/

ケーススタディ – 2016年2月18日Mitsubishi HiTec Paper Europe GmbH
参考:https://eu3a.mitsubishielectric.com/fa/en/news/case_studies

Mitsubishi HiTec Paper Europe GmbH - 特殊紙類製造業 三菱ハイテク・ペーパー・ヨーロッパ

Mitsubishi HiTec Paper Europe GmbH(三菱ハイテク・ペーパー・ヨーロッパ)は、インクジェット紙、感熱紙、カーボンレス紙、ラベル紙、バリア紙など、コーティングが施された高性能な特殊紙類を製造する世界有数の企業で、ドイツビーレフェルトとフレンスブルグに工場を持っています。
感熱紙に関しては、毎日300トンがコーティング・マシーンにかけられ、毎分1730メートルの最大処理速度は2007年以来世界記録を維持しています。


同社の工場では、FAG Schaeffler(FAGシェフラー)と共同開発したFAG Smart Check、SmartControllerなどのSmart Condition Monitoringソリューションを実装することで、予測メンテナンスへの全体的アプローチを行っています。特殊なコーティング機器だけでなくその補助的機器も含めて常時モニタリングが行われており、そこから送られるデータを解析することで機器の健康状態を管理しています。
また、26機のFAG SmartCheck センサーが機器の振動をモニタリングしています。
これらにより、同社はルーチン・メンテナンスではなく、実際の機器の状況に応じた予測メンテナンスを実施することに整備・点検の重点をシフトしました。その結果計画外ダウンタイムを飛躍的に削減し、資産のライフサイクル管理と生産を最適化し、トータル・オペレーティング・コストの削減に成功しました。

Industry 4.0 今後の展望

参考:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5383681/

ドイツのデジタルの未来への競争力
参考:https://www.mckinsey.com/~/media/McKinsey/Featured%20Insights/Europe/Stimulating%20digital%20adoption%20in%20Germany/Driving-German-competitiveness-in-the-digital-future.ashx

McKinsey(マッキンゼー)は、ドイツのデジタル化における将来の競争力に関する調査報告書(Driving German competitiveness in the digital future)のなかで、高齢化社会やデジタル化・自動化の国際競争が激化する環境でのドイツの将来への展望を述べています。
先ず語られているのが、自動化技術を採用することで2030年までにGDPを2.4%延ばすことが可能だということです。高齢化による、0.6%のマイナスの伸びは予測されますが、それでも充分な成長を実現することが出来るでしょう。
また、企業による更なるデジタル化への投資、政府が労働市場の変革への対応を行うことの必要性も指摘されています。

政府がとるべき優先事項
この調査報告書では、政府がとるべき対応として以下のものを挙げています。

  • 公共部門でのデジタル化の推進
  • デジタル化が遅れている分野を先進分野と同等まで押し上げる(建設や金融業界など)
  • 海外からの専門知識を持った人材の積極採用
  • デジタル・インフラとエコシステムの提供
  • 将来の労働市場への対応

ビジネス・産業界がとるべき優先事項

  • トップ主体で明確なデジタル化への道筋を示す
  • バリューチェーン全体でのデジタル化への理解を促す
  • 既存の業態から離れたところでのビジネス機会の模索
  • デジタル化によって節約できた資金を他の分野に投資する

2017年5月に発表された調査結果では、ドイツ企業の53%が2%以上増収を見込んでいるという結果が出ました。これはEU平均の45%を大きく上回るものです。
また、半数のドイツ企業のエグゼクティブがIndustry 4.0はビジネスの競争力を高めると考えています。これはアメリカの57%、日本の54%にかなり近い数字です。
これは、ドイツ政府がIndustry 4.0に対してとる、データセキュリティへの取り組みや海外からの専門職の迎え入れのシステム作りにサポートされています。
逆にインドなどの新興国や、アジアの製造大国においては、ドイツのIndustry 4.0への取り組みを自国にも広めようと言う動きが活発で、ドイツと他国との関係強化にも効果を発揮しています。今後もこの傾向は強まるものと思われます。

プライバシー
IoTデバイスを通して個人情報が収集されている現在、如何にプライバシーを保護するかと言うのは大きな課題です。
Facebookユーザーの情報流出とか、ハッキングによるクレジットカードや個人情報の盗難など様々なケースがメディアをにぎわせています。スマートフォンのロケーションサービスが利用者の現在位置を探知して、周辺のお薦めのショップやレストラン情報を勝手に送りつけてくることに驚いた人も多いと思います。
データを収集し活用する企業のセキュリティ対策や、データに対する規則、透明性の維持などが重要な課題です。

信頼性
第4の産業革命そのものはニュートラルなものですが、それを企業や政府がどう取り扱うかという事が、信頼性を左右します。例えば消費者が新しいAI技術を信頼するかどうかは、その企業がこれまで示して来た企業活動の姿勢にも関わってきます。
この新たな産業革命が人々の信頼を得るためには、自分たちも含めた全ての関係者が協力して、共通の目的とのつながりを維持しなくてはなりません。
透明性を持って、課題に対峙することが大切です。

Industry 4.0による暮らしの変化

Industry 4.0が仕事市場に与える影響
参考:https://datafloq.com/read/industry-4-0-how-automation-iot-will-affect-jobs/4539

Industry 4.0が社会と個人に与える影響を理解する
参考:https://trailhead.salesforce.com/en/modules/impacts-of-the-fourth-industrial-revolution/units/understand-the-impact-of-the-fourth-industrial-revolution-on-society-and-individuals

第4の産業革命にどう対応するべきか
参考:https://www.ge.com/reports/the-4th-industrial-revolution-what-it-means-how-to-respond/

Industry 4.0は製造業を中心とした様々な業界の形態を根本から変革するものですが、それによって私たちの社会や生活にも多大な影響が与えられます。
教育と情報へのアクセスが何億もの人々に生活を向上します。コンピューティングとネットワークやデジタルサービス、モバイル・デバイスなどを介してこれが発展途上国を含めた世界中で実現可能なものとなっています。
しかし、同時にテクノロジーの進化による恩恵の反面、バイオテクノロジーの活用によるデザイナー・ベビーや遺伝子組み換えなど、生態系への脅威やテクノロジーの悪用などによるマイナスの側面にも注意を払うことが必要です。
Industry 4.0が私たち自身や、社会・生活に影響を与える分野には、以下のようなものが考えられます。

雇用への影響

AIや自動化技術の普及により、労働環境や労働市場は大きな変革を迎えます。
ベビーブーマー世代が大量に定年を迎えるに当たり、AIや自動化はそれによって失われる労働力を補うと言うポジティブな面があります。2016年の調査ではドイツにおける実労作業時間のうち48%は自動化が可能である、と言う結果が出ています。単純労働の分野だけでなく、データ処理の分野でもAIの活用により、データ収集・処理・解析などで大幅な作業時間短縮が可能となります。
しかし、単純作業が機械に取って代わられると、専門技術や高度な教育を受けていない若年労働者層は打撃を受けることが予測されます。一方、創造的な分野やIoT分野では新たな専門職への需要が大きく増えることでしょう。
これに対しては、企業や政府が既に社会に出ている層に対する新たな教育・トレーニングの機会を設けることが必要となります。
また、社会制度を充実させるなどの政府主導の仕組みの改善も求められます。ドイツ政府は歴史的にこの分野で優れた舵取りを行ってきており、実際東西ドイツが統合した際にも、積極的な補助政策を採ることで、東西でのGDPの差を飛躍的に縮めることに成功しました。
Industry 4.0によって職を失うかもしれない、低スキルの労働者に対する対応が社会保障政策の焦点となります。

多様性社会での平等

World Economic Forum Global Risk Report 2017 (世界経済フォーラムによるグローバル・リスク報告書2017年版)は、第4の産業革命は全ての人の収入を高め、生活を向上する可能性を持っているが、現状ではその恩恵に預かるのは一部の限られたグループに限定されている、という懸念を表明しています。この不平等感が、政治偏向や社会の断片化などに繋がる可能性もあります。
これ以前の産業革命の恩恵がまだ届いていない地域や人々が存在することも確かです。第4の産業革命に取り組む際には、その恩恵がより広範な層に届くように留意することが大切です。

参考文献一覧

【IoTレポート】次世代スマートファクトリー:産業用ロボット、IIoT、3D印刷、高度なデータ管理 世界のIoTに関するレポート公開中