ドイツにおける「Industry4.0」の歴史:経済の根幹を成す製造業における救世主コンセプト – その①

ドイツにおける「Industry4.0」の歴史:経済の根幹を成す製造業における救世主コンセプト – その① – 記事

1. Industry4.0の言葉の意味・定義

Industry 4.0(第4次産業革命)とは、2011年にドイツ工学アカデミーが発表した、ドイツ政府が推進する製造業のデジタル化/コンピュータ化を目指すコンセプトを指し、サイバーフィジカルシステム(CPS)を導入した、スマートファクトリーの実現を目標としています。生産工程や流通工程をデジタル化することで、生産・流通の自動化、バーチャル化を大幅に促進させ、生産・流通コストを削減し生産性向上を目指します。

Industry 4.0の4原則は、「相互運用性」、「情報の透明性」、「技術的アシスト」、「分散型意思決定」です。

IoTを活用することで、設備と人の協働(サイバー・フィジカル・システム)が実現でき、拡張現実を活用した作業者支援、ビッグデータクラウドコンピューティングを活用した品質管理及び工程の改善、製品のカスタマイズ化などが達成可能です。

2. Industry4.0という「言葉」の語源

「第一次産業革命では水や蒸気を動力源とした機械を使った生産の事を指し、第二次産業革命では電気を使い機械を動かして分業の仕組みを取り入れたことにより大量生産(マス・プロダクション)が可能となり、そして第三次産業革命ではコンピュータ制御(プログラマブルロジックコントローラ)により生産工程の自動化(コンピュータ統合生産)が実現された。インダストリー4.0はそれに続く「第四次産業革命」という意味合いで名づけられたものである。」

wikipedia参照

3. ドイツにてIndustry4.0の概念はいつからあり、いつ拡まり始めたのか

東西ドイツ分断後、旧西ドイツは第2次世界大戦後顕著な経済発展を達成しました。しかし、1990年の東西統一以降、旧東ドイツへの援助コスト(社会保障など)の増大などを原因として経済が低迷しました。一方、旧東ドイツでは市場経済に適応できなかった旧国営企業の倒産などを原因として、失業率が17.2%に達し、深刻な問題となっていました。これが、2000年までのドイツ経済低迷の原因であったといわれています。ドイツは、「シュレーダー改革」、「産業クラスター政策」の導入などにより、この危機を乗り越え、経済発展を遂げます。

しかし同時期に、先進国の生産ラインは、原料資源が比較的安価な発展途上国へとシフトされてきていました。
2011年、ドイツ政府は2006年と2011年の5年間における、世界の工業製品販売比率の調査を実施しました。その結果判明したのは、この機関にドイツの販売比率が15%の上昇を記録したのに比べ、中国は350%を記録したということでした。

一方で経済成長は非常に好調が続き、成果配分を求める労働者の声を反映するため、賃金が引き上がってしまいます。生産性の増加率と賃金の増加率の乖離は次第に顕著になり、ドイツ政府は今後の経済発展の原動力となる成長戦略が必要だと考えていました。

製造業が経済の根幹を成すドイツで、この状況を打開する為に考え出されたのがIndustry 4.0のコンセプトです。

「ドイツに本社を置くヨーロッパ最大級のソフトウェア会社であるSAPも売上げが飽和しつつあったため、新規分野を必要としていたが、SAP1社のみでは対応できずにいた。SAP会長がドイツ工学アカデミー会長に就任した際にインダストリー4.0を提唱し、これにシーメンス、ロバート・ボッシュといった企業、フラウンホーファー協会、アーヘン工科大学、ミュンヘン工科大学といった研究所や工科大学、および、機械、電気、情報の業界3団体などが賛同したことで、国家プロジェクトに採用され、2011年頃にドイツ国内で議論がスタートした。」

wikipedia参照

とされています。

Industry 4.0は、2011年ハノーバー・メッセにおいてドイツ政府が民間企業と組んだプロジェクトから提唱されました。
当初は、先ず大企業を中心とする企業グループ(サプライチェーン、バリューチェーンなど)を形成し、そこに中小企業を取り組み、大企業のサポートを受けながら企業グループ内でIndustry 4.0の導入を推進する、という考えがとられていました。

その後2013年には、「Industry 4.0導入促進のための戦略文書」が発表され、新たに求められる産業革命の基盤と質が明らかにされました。

Industry 4.0の基本コンセプトは、

  • インターネット及びIoTの利用
  • 企業内でのテクニカル・プロセスとビジネス・プロセスの統合
  • デジタル化
  • スマートファクトリー

にあります。
Industry 4.0を活用することで、10-30%の生産コストの削減、10-30%の輸送コストの削減、10-20%の品質管理費の削減が可能であるとも言われています。

又、中小企業が全体に占める割合の高いドイツでは、利幅は薄いもののこれら中小企業向けのIndustry 4.0が大きな可能性を秘めているという理解があり、これが2015年にドイツ連邦政府経済エネルギー省が開始した、中小企業へのデジタル技術導入の促進を目的とした「Mittelstand Digital」政策へと実を結びました。

4. ドイツのIndustry4.0におけるキープレーヤーとその活動

製造業にとって、同業他社との競争に打ち勝つ為の一番の挑戦課題は、効率を上げるために、市場に商品を投入するまでの期間をいかに短くし、フレキシビリティを増し、イノベーション・スピードを加速するかです。

この場合に、考慮すべき項目は、品質やコスト効率、配送にかかる時間、フレキシビリティ、人間工学です。
この課題を達成する為には、新たなテクノロジーを活用し業界内の変化に対応する為の、工場における相互接続が益々重要となってきます。現存のテクノロジーを利用している大企業にとって、テクノロジー・シフトはビジネスの根幹を揺るがすものにもなりかねません。これら大企業にとっては、ビジネスとテクノロジーの変換に同時に対応することは困難なことなのです。
近年の製造業のトレンドは、個々の顧客の要望にあった、カスタマイズされた製品をいかに開発するかです。

Siemens Electronics Plant


Siemens Electronics Plantは、自動車メーカーから飲料生産者まで様々な業界での機器を自動化するために使用される、シマティック・プログラマブル論理制御(PLCs)を製造していますが、これを自社の工場においても活用しています。Siemensの工場では、反復作業や大量生産作業の自動化だけでなく、オーダーの受領や生産品の出荷などの作業にも自動化が採用されています。同社では2020年までに自社のバリューチェーン全体の80%でのデジタル化を目指しています。

● BMW


自動車業界は、根本からの変革を求められています。電気自動車、無人運転車両、だけではなく新たなマーケットの開発も行われています。
Industry 4.0を採用することで、BMWは先ず工場での電力消費量の削減に成功し、Spartanburg工場への導入例のみで、2500万ユーロの経費節減が達成できると予測しています。Intelligent energy management data sytem (iEMDS)の導入により、エネルギー消費量の削減、生産における信頼性の向上、より高い製品の品質、を達成することが可能です。
インテリジェント電力メーターを基本とするこのシステムは、既存のシステムとも完全に統合し、電力消費量のモニタリングだけでなく、機械やロボットの不具合感知にも成果を発揮しています。
BMWでは、Industry 4.0を必ずしも人間を必要としないプロダクションライン、自動化の促進、とは捉えておらず、工場で働く作業者と製造計画を立てるスタッフをサポートする為の新しいテクノロジーであると位置づけています。

● Mercedes (Daimler AG)


同じくドイツの自動車業界大手、MercedesはIndustry 4.0を、設計段階からセールス・サービスまでの全てのバリューチェーンのデジタル化、と捉えています。
デジタル革命のポテンシャルは非常に大きなものです。世界中で普通自動車や運送用車両などへのデマンドは拡大し続けています。それと同時に、各人の車の求める要求事項も多様なものとなっています。1970年代には顧客を満足させるMercedesのモデルはわずか3種類で済みましたが、今ではその10倍のバラエティが必要となっています。それに伴い開発にかけられる時間はどんどん短くなってきています。
Mercedesが目指しているのは、自動車を提供するだけでなく、モビリティ・サービスにおけるネットワーク・プロバイダーとなることです。
新しいEクラスは、スマートファクトリーで、拡張現実、バーチャル・アセンブリー、デジタル・プロセス・チェーン、人間とロボットの協力、などを駆使して生産されています。

● SAP


SAPは、SAP Manuracuturingソリューションを利用することで、企業はインテリジェンスを製造プロセスに統合して組み込むことが可能となり、リアルタイムで情報ソースを提供し、Industry 4.0の原則を容易に実行できることができます。このソリューションは、計画から実行までのプロセスの最適な調整に必要なデータを提供し、計画から製造現場までの製造サイクルのあらゆる側面をカバーします。現状ではSAPが、機械レベルからERPまでの完全に統合したソリューションを提供できる唯一の企業です。
SAPが提供するソリューションには、SAP Manufacturing Execution (SAP ME)、SAP Manufacturing Integration and Intelligence (SAP MII)、SAP Plant Connectivity (SAP PCo)、SAP Digital Manufacturing Insights (DMI)などがあります。
上記に加え、SAPは新たなデジタル・イノベーション・プラットフォームであるSAP Leonardoを提供しています。

● Bosch


BoschのIndustry 4.0の特長は、分散型インテリジェンス、迅速な統合とフレキシブルなコンフィグレーション、オープン・スタンダード、バーチャルでのリアルタイムな表現、デジタル・ライルサイクル・マネージメント、安全で価値を創出するネットワークで、その核となるのは「人間」です。
これを中核として、ソフトウェア・ソリューション、ロジスティックとマニュファクチャリング、サービスとコンサルティング、フィールドレベルの設備を提供しています。

● その他

製造業の工場以外でのIndustry 4.0の実例としては、ビッグデータを活用した品質管理、自動運転の輸送車両、ロボットによる製造工程の実施、製造ラインのシミュレーションなどが上げられます。

5. ドイツでのIndustry4.0の今後の展望/目標

デジタル化の推進によって競争力を向上させたドイツの製造業界が焦点を当てるのが:

  1. プロダクション・プロセス
  2. ロジスティック
  3. カスタマー・リレーション
  4. ハイブリッド製品

の分野となります。

しかし、現在大きな課題として認識されているのが、経済と社会のデジタル化の結果をどうコントロールするか、ということです。ここで先ず注目されているのが、生産性向上と競争力の問題、そして雇用の問題、資格の問題と、ビッグデータとデータセキュリティです。

Industry 4.0は、ドイツ政府と調査機関、そして企業の全てが自動化された「スマート」な工場を実現する為の企業/サービス間コラボレーションの集大成なのです。ドイツの製造業は自国がヨーロッパで最大の経済規模を誇りますが、発展途上国に比べて高額の労働力が足かせとなっていたことも事実です。Industry 4.0はドイツが世界的競争力を向上させるためのアイディアなのです。

2013年4月に発表された、連邦教育科学研究技術省向けのIndustry 4.0導入促進のための戦略文書「Recommendations for implementing the strategic initiative INDUSTRIE 4.0」によれば、将来的にはビジネスが、機械や倉庫システム、生産設備をサイバーフィジカルシステム(CPS)の形で組み込んだグローバルネットワークを構築することを目指し、製造業の分野においてこれは、自律的に情報を交換し、行動を起こし、互いに独立して制御するスマートマシーンストレージシステム及び生産設備から構成される、そうです。

ここで重要視されたのが、相互運用性の確保、分散化、リアルタイムでの実行、仮想化、モジュール性と柔軟性です。そして、Industry 4.0を成功させる為には、バリューネットワークを介した水平統合、垂直統合、ライフサイクル管理及びエンド・トゥー・エンド・エンジニアリング、付加価値のための指揮者としての人間の関与、が必要であるとも述べられています。

まとめ

第4次産業革命として、ドイツの今後を左右し、2011年にSAPの当時の会長が提唱した、「Industry4.0」。全てが自動化された「スマート」な工場を実現する為に今正解中の大企業が注目しています。製造業が経済の根幹を成すドイツで、いかにドイツの製造業を復興するか/高賃金のワーカーをいかにうまく雇用するか。すべての作業員や指導者などが協力し、学び、機械やデータと共闘する必要があり、大企業からSMBまでさまざまな企業が新たな「革命」の起きることを期待しています。

次回予告

次回の記事は、ドイツで「Industry4.0」導入事例に焦点を当て、ドイツにてIndustry4.0によって今後どんな暮らし方になっていくのか、をお伝えして参ります。乞うご期待ください。

参考文献一覧

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